2015年11月7日放送 『新井英一の世界vol.331』

 
 近年の天気予報は、ホントに正確ですね。当たって嬉しくないお天気でも、その正確さに感心することしきりです。冷え込むのをわかっていながら、うっかり風邪を引いてしまい、くしゃみと熱に、2,3日悩まされた後は、ポカポカ洗濯日和の到来です。何もしないのはもったいない、洗うものはないかしらとムリヤリあちこち探しておりました(笑)。家に閉じこもる日が続くと、どこでもいいから出かけたくなるのが人の常というもの、思いついたのが夜の一人散歩です。ロマンチックで素敵でしょ? 場所は、ホントは祇園界隈がいいのですが、今は観光シーズンでとんでもないから避けるとして、二条通三条通、最近は夜の烏丸もなかなか良くて気に入っています。素敵なお店を発見したら友達誘って行ってみよう、小さなワクワクでいっぱいです。

 さて、私の何よりの楽しみである新井英一ライブが、まもなく東京で開催されます。場所は神楽坂です。神楽坂は、皆様、ご存知でしょうか? 食事やお洒落の人気スポットとして雑誌やネットで注目を浴びてる界隈です。6、7年前、これも新井英一ライブの時でした、待ち時間を利用して散策してみようと、神楽坂まで足を伸ばしたことがありました。名前の通り、全体がゆるい坂になった、かなり広い区域です。てっきり沢山の人で賑わった街をイメージしていたら、見事に裏切られました。実際に歩いた印象は、都会の中の「村」です。住宅に紛れこむように小さなお店が点在している神楽坂…、おそらく私がここを村だと思った理由は、耳がキャッチする音の量からだと思います。置屋でしょうか、三味線の音色が聞こえてきましたが、通り過ぎたら再び、静寂に包まれました。よく晴れた昼下がりの音のない街を歩いていると、いつの間にか、私の意識は、昔歩いたパリのビュット・オ・カイユに飛んでいました…。

 Butte aux Cailles、鶉の丘。モンパルナスからメトロでたった数駅というのに、この住宅街は陽が落ちると、まるで世間から忘れ去られたような静けさを漂わせています。自分のヒタヒタという足音がやたら大きく聞こえます。凍える2月は誰もが身を縮めて歩き、時折りすれ違う人達とも、お互いくぐもった声で「ボンソワ…」だけの短い挨拶。街灯のないパリの夜道は月の灯りが頼りです。磨り減った石畳に月光が反射して、青白く光っていました。濡れたビロードを思わせる鈍い青さでした。

 時間が止まったような神楽坂とビュット・オ・カイユも、今ではすっかり様変わりしているんでしょうか。どちらもちょっとやそっとじゃ動じない、土地が持つ力みたいなものを感じるのですが、どうでしょうかねぇ。そうあって欲しいと私が願ってるだけかもしれません。では、音楽です。神楽坂ライブの詳しいご報告はいずれまたということにして、本日も私の大好きな曲を2つご用意致しました。早速お聴きいただきましょう、唄・新井英一。『夜の雌鹿』、続いて、『悲しきこの煙草』をお聴き下さい。

今週の曲紹介
『夜の雌鹿』(アルバム「オオカミ狩り」より)
『悲しきこの煙草』(アルバム「ライブ・イズ・ベストvol.1」より)

放送時間17分

『新井英一の世界vol.331』の再放送は、11月9日(月)午後3時〜、11月10日(火)夕方6時15分〜です。