ある両班(ヤンバン)の一生・・・『安東民俗博物館』 ・韓国

 まったく支障ないので話は思いっ切り前後します、今日は8月25日、新井英一ライブ当日です。ええっと今日のスケジュールは・・・、夕方5時から、友人Kさんも出展するアートフェアのオープニングパーティ&講演会があり、それが終わると7時半から待望のライブ、そして皆と晩ご飯です。要約すると夕方までヒマってこと。Kさんもイムさんも何かとバタバタ忙しいから相手してもらえない。「ヒマな者同士、どっか行こうか」と、Kさんのスタッフ・Hさんとどっか行くことにしました。

 前の晩、市の職員・イムさんに安東おすすめの観光スポットを尋ねていたのです。いくつか候補を挙げて説明してくれたけど、イマイチ理解できない。理解できたのは、「明日は雨です」「ホテルからタクシーで1メーターの距離にダムがあります」「ダムの周りに安東の名物料理が沢山あります、楽しいです」・・・う〜む・・・「ダム+名物料理=楽しい」の数式がさっぱりイメージできないんだけど・・・。民俗博物館がどうのこうのとも言ってるけど、私の頭ン中、安東の地図が浮かんでないので、何聞いてもちんぷんかんぷん。


 やっぱりイムさんの言った通り、今日は朝から雨・・・。とは言え、私が朝の散歩&朝食(6時半〜8時半)に出掛けた時はまだ大した降りでもなかったのです。この調子だと夕方には上がるかなと期待したぐらい。朝、Hさんと打ち合わせ。「マサミさん、今日はどこ行きます?」「ダムにしよう、近いって言ってたし。で、塩サバ食べる」。ダムに決めた理由は、安東名物・塩鯖でした♪ で、朝10時。ホテルの前でタクシーを拾いました。気の良さそうな運転手さん、「アンドンダムに行って下さい」「???」「Andong Dam、please」「???」。ち、ちょっと、イムさん、アンドンダムで通じる言うたやん、私の発音が悪いのかと、アンドォンデァ〜ム、あんどんだむッ!思いつく限りいろいろバリエーション試してみたけどダメ。Hさん、旅行前に買ったという韓国語の本を必死にめくり、「ダム、載ってません!」「役に立たんな」、代わりにホテルで貰っためっちゃ大雑把な地図を見せて指さしてみるけど、大雑把すぎる上、日本語だから理解してもらえない。ホテル戻って、韓国語版の地図を貰ったけど、今度は私達が読めないから指させない。10分以上、タクシーの中では大パニックが繰り広げられておりました。・・・最終的にはどうやってわからせたかって?・・・私の貧相な韓国語のボキャブラリーから、「ムゥル(水)!ザブンザブ〜ン!ムル!ムッルーッ!!!」、叫んだのが効いたのか、「アーッ、ムル!」。運転手さん、自分の手柄のように目を輝かせて「沢山水がある所だろ!?」、ずっとそう言うてるだろ。やっとタクシー動き出した(笑)。


・・・え〜、着いたのはここです・・・。1メーターって言ったからてっきり近場だと思ってましたが、韓国の1メーター、長過ぎちゃいます? どこまで行くの!?って言うぐらいの距離なのに、タクシー代、たったの380円・・・。1メーターで、1個850円のハンバーガーが何個食べられることか。・・・それにしてもタクシー降りた途端、雨、きつくなったように思うのは気のせいですか?

 着いて早速疲れて、カフェに入った私達。まだ歩いてもいないのに足もう濡れてる・・・。「ダム+名物料理=楽しい」の数式、カンタンに解けました。なんてことない、ダムの周りにレストランが数軒あるだけでした。そりゃあ、お腹空いてれば楽しいでしょうけど、私、朝食べたクッパ、まだ胃の中で動いてるもん!・・・「これからどうします?」「うん・・・、こんなに雨降ってる中、ダム見学もなぁ、水もうええやろ・・・」。することないもんで、例の大雑把な地図を取り出しました。「町に戻ってナントカ横丁行ってみる?でも中心地からすごい遠いのよ、不思議やねぇ、安東の町って。造りがさっぱり理解できない・・・」。二人でああだこうだ地図を眺めてる内、ホントにこの地図が大雑把であることに気が付きました。それぞれの観光地は密集してるがためにわかりやすく行間を空けて載せてあるだけでした。行間空け過ぎ。「ということは、民俗博物館、近くじゃないですか?」「あ!イムさん、おススメって言うてた」。行くとこ見つかったら、急に興味とエネルギーが湧いてきました。生まれて初めて異国で食べたチョコレートケーキ、すんごく美味しかったです。

 「♪初めて歩く道はいつもぉ〜遠ぉくに思うものぉ〜♪」(新井英一・『道玄坂』より)。雨の中をトボトボ歩いてやっとのことで到着した『安東民俗博物館』。今朝は気温が低い上、濡れそぼってみじめで寒いです・・・。でも中に入ると、人形が!わぁ〜い、こういうの大好き!俄然、元気になった。いやはや、これがなかなか面白かったんです、前置きがめちゃめちゃ長くなりましたが、これから私と共に、一人の両班の生涯をお勉強致しましょう。『ヤンバン』とは昔の官僚、身分は貴族階級の人々です。

 まずは服飾の紹介です。貴族は家の中でも帽子をかぶって生活していたそうです。服もそうですが、ベルトに靴、アクセサリー、ひとつひとつがかなりセンスいいと見受けました。

 
 これはヤンバンの日常の食卓でしょうか。海に接していない安東では、主に穀物や野菜が中心だったそうです。で、味つけは辛くて塩辛い傾向だとか。そう言えば『塩鯖』も塩漬け保存ですもんね、なんとも言えない美味ですが。安東で肉と言えば鶏肉で、大事なお客様のもてなし料理だったそうです。オレンジ色の汁物は大豆のスープかな?大豆もこの地域の特産品と案内に書いてあります。

 ウン月ウン日ウン時ウン分、ある貴族の家に子供が誕生しました。さぞや「でかした!!」の歓声が上がったことでしょう。どこの国でもそうでしょうが男の子を産むことが嫁の努め、特に当時の韓国ではそれが強かった。方角も回数も忘れましたが、生まれたのが男の子だったら、いずれかの方角に何回、女の子だったら別の方角に数回、赤ちゃんを回す、健康を願ってか成功を願ってかはわかりませんが、願かけの一種、そんな習慣があったそうです。 

 すくすく育って、3歳になりました。利発そうですねぇ、将来が楽しみです。よくぞここまで育ってくれたとお祝いしてもらっています。たくさんお食べ♪

 貴族の家はとにかく大きい。使用人たちも沢山います。これは植物を編んで糸にし、それを繊維にしている様子。出来上った織物は上納するんでしょうか。

 ちょうどここに差し掛かった時、博物館の館長さんでしょうか、白い民族衣裳をまとった上品なおじいさんが、私達のところへやって来た。流暢な日本語でHさんをさして、「あなたのお子さんですか?」と私に訊きました。違いますよ!そう思われても仕方ない年齢差だけど、私もまだ箱に入ったままですよ・・・「それは失礼致しました」と言ったか言わずか、おじいさん、静かな口調で語り始めました。「ヤンバンの家に生まれたら、勉強々々の毎日です。どこの家でも有名な先生を取り合い、住み込みで家庭教師につけて、生活も共にします。先生は奥様がいても単身赴任で仕事に赴くのです」。ふぅ〜ん、そこまでしなきゃいけないとは学者も大変。するとここから、おじいさんの話の方向が変わりました。皆さん、先生の向こう側に立てかけてある「竹の筒」にご注目下さい。「先生もまだ若い、奥様が恋しい時もあります。これは『竹夫人』と言って、奥様の代わりに抱いて寝るものです」「へ〜え」「この竹夫人をまたぐのは親をまたぐのと同じ、決して許されない行為です。子供たちは親や先生を敬うのと同じぐらい、竹夫人も敬います」「‥はぁ…」「そして先生が亡くなった時は竹夫人も一緒に墓に埋めるのです」。ええッ、死ぬまで単身赴任なんですかッ!?・・・おじいさん、ひと通り話したら満足そうに去っていきましたが、私とHさん顔見合せて、「ええ話かあ?・・・」。

 月日は流れ、かつての坊やは美しくも頼もしい若者に成長しました。相変わらず勉強してますね。ご覧の通り、先生とは質疑応答スタイルです。その会話の様子がテープで流れています、何を言ってるかは当然わからないけど、どんな質問にも即座に答える先生は相当な博学であることは、私にもわかります。

結婚式。

主婦の部屋です。奥行きのある広さ。裕福なお家に嫁いでもやるべきことは沢山あるようです。箪笥は別室で沢山展示してありました、かなり良いものです。

還暦のお祝いです。「お父様、お母様、60年間お疲れ様でした、これからもどうか長生きして下さい・・・子供一同」の図。それにしてもどれだけ家族がいるんでしょう、これだけのご馳走、残さず食べ切れるのかが気になります。

カメラに収まりきれない、お母さん側にもまだあるご馳走。

芸が細かいなぁ〜♪

ここに一人の両班がその生涯を閉じました。ご遺体はこのようにしっかりくるみ、埋葬されます。私が写真撮るのに飽きただけで、お墓の様子もしっかり案内されていましたよ。だいぶミニチュア版ですが、日本の古墳を思わせるものでした。両班って相当身分が高いんですね、お葬式は豪華に飾られた山車が出たり、お屋敷内には、位牌専用の建物もちゃんとあるんですよ。

この日、私と行動を共にしたHさんです、可愛いでしょ?安東の男の子たちにモテモテでした。館内の、勝手にチマチョゴリを着て撮影ができるコーナーにて。

「行きはよいよい帰りはこわい」とはこのダムのことです。見学に来られる方はお気をつけ下さいね、タクシー乗り場なんてございませんよ! 町に戻るには、ザアザア降りの中、ひたすら歩くしか手段なし・・・。お腹空いたぁ、周囲のレストランでサバ食べたいのは山々だけど、こんなところで長居するより少しでも町に近づきたいと、辛抱して帰ることにしました。1時間ほど歩いたかなぁ…町が見えてきたのに、どんだけ歩いても距離縮まらないのです。これで380円とは韓国のタクシー料金、やっぱり安すぎますッ!

やっとのことで帰り着き、前述の通り、ヘトヘトになって、「安東チムタク」を食べに行ったのでした。