2016年2月13日放送 『新井英一の世界vol.345』

 
 カレンダーは毎日何度も見てるというのに、どういうわけか、祝日を無視するクセが私にはあるようです(笑)。たいていは直前、ひどい時は当日、休みと知って、「ラッキ〜♪」なんて喜んでる始末ですから、当然予定など何もありません。家の中、誰とも会わない1日を、ムダに過ごしてしまった感がじわじわ募る午後3時過ぎ、1通のメールが届きました。いつも私のことを気にかけてくれる画廊のオーナーからです。「良かったら来ませんか?」、あと数時間後に始まるオープニングパーティのお誘いでした。何やら私が見ておくといい展覧会があるそうです。アートに疎い私にはどんなものか想像つきませんでしたが、そこは私の気質を把握している人の呼びかけです、ふたつ返事で承諾しました。

 日もすっかり暮れた東山三条…、到着するとパーティはすでに始まっていました。ガラス張りのギャラリーには人がいっぱい、絵の紹介に、みな熱心に耳を傾けている様子です。早く中に入ろうと駆け寄った私の足を思わず止めたのが、壁にかけられた沢山の絵でした。正確には、絵の色です。赤に青にショッキングピンク、色という色がキャンバスから飛び出し、人間を尻目に、互いに会話しているようでした。ドアを開けて中に入ると、絵達のお喋りはピタリとやみましたが、絵は一層鮮やかさを増したように思いました。
 この展覧会は、一人のコレクターのコレクション展でした。今はもう引退されていますが元は学校の先生で、教鞭をとる傍ら、若手作家の作品を買い、毎年このように展覧会を開いているそうです。引退後は予算が減ったと笑ってらっしゃいましたが、すごいですよ、もうかれこれ40年になるそうです。お話しすると、確かに教師を思わせる律義さで、句読点まで発音してるようなスローペースです、しかしながら、選ぶ作品は真逆の印象ですからね、作品もさることながらご本人への興味が尽きない私でした。

 夜が更けるにつれ、人も少なくなり、残ったのはオーナーの気心知れた仲間十数人。みな、作家さんのようです。じっくり椅子に腰を落ち着けると、会話もお酒もとどまる所を知りません。話の舞台は世界を駆け巡り、聞いているだけで夢を見られる勢いです。誰も自らのことは何ひとつ語らずとも、話す内容がすでにその人自身を物語っています。人間が素敵で、わけもなく嬉しい。今を生きていることを喜んだ夜でした。

 では音楽です。いつもなら、こうだからこの曲を選んだという自分なりの理由があるんですが、今回はよくわかりません。あの夜を思うと自然に聞こえてくるんです。何か言葉を探すと唄声が遠ざかってしまう、だからこのまま聴いて下さい。唄・新井英一。『ドックオブザベイ』、続いて、『心の水』をどうぞ。

今週の曲紹介
『ドックオブザベイ』 (アルバムなし)
『心の水』 (アルバム「ブルースを唄おう」より)

放送時間17分


『新井英一の世界vol.345』の再放送は、2月15日(月)午後3時〜、2月16日(火)夕方6時15分〜です。