2015年10月17日放送 『新井英一の世界vol.328』 薬師寺 ・天武忌にて献歌

今年も10月8日・9日と2日に渡り、奈良の薬師寺にて、『天武忌』が行われました。天武忌とは、薬師寺建立にあたって最も重要な人物である天武天皇の法要です。幸い、当日の空はどこまでも高く青く、冴え渡っていました。本日は、私が過ごした、ほんの数時間ではありますが、天武忌の様子をお話し致します。

 薬師寺に到着すると、本堂では既に『大般若転読』が始まっていました。巨大な薬師如来を前に、お坊さん達がそれぞれ唱える呪文のような大般若経、その響きは、仏教の、奥へ奥へと誘うような、なんとも不思議に心地よいものでした。転読の法要が終わると、今度は堂内一斉、般若心経が響き渡ります、その、音のメリハリと言いましょうか、ゾクゾクするほどで、これだけでも来た甲斐は十分という感じでした。

 次は、隣の建物に大移動して、いよいよ、新井英一による唄の奉納です。その前にご住職の説法を頂戴したのですが、こんなことをおっしゃっていました。今はかつて類を見ないほど、家庭が荒れている時代である、その原因のひとつが、家の中から神棚や仏壇が消えたことであろう。手を合わせることで敬う心が育つんだと。確かに顧みると、先祖や神様を日々お参りする内、自然と身に付いたこと、沢山ありますね。「…ということで、皆さん、誕生日や入学のお祝いには、ぜひ仏壇や神棚をプレゼントしましょうね(笑)」、住職のジョークに笑いながらも、私は、仏壇に向かう祖父の背中を懐かしく思い出しておりました。

 当会場である大講堂の本尊は弥勒三尊ですが、天武忌ではそこに、天武天皇、奥方の持統天皇、そしてお二人のご子息、大津皇子が加わります。横一列に並んだ正装の僧侶、これまた横に大きく広がった我々一般聴衆…、いつものお寺のライブと違う点を挙げるなら、新井英一の正面はご本尊、というところです。

 本日は全3曲をエンディングなしでお送り致します。今も聞こえます…、実際は、ゆっくりゆったり、声の、ひと粒ひと粒を、私達一人一人に分け与えるような、そんな唄い方でした。唄の間、私は一人の男性を見ていました。その人は立ったまま、天を見上げて微動だにせず、しかし時折り、目元を拭うようなしぐさを繰り返していました。唄が始まると、急に吹き込んできた境内からの風が、ふと私には大地の声援に思えました。改めて、唄・新井英一、ギター・高橋望。『命の河』、『道玄坂』、最後に『祈り』をお聴き下さい。次週もまたお会いしましょう。


今週の曲紹介
『命の河』
道玄坂』(以上アルバム「眠る人」より)
『祈り』(アルバム「唄魂」より)

こっそり撮った堂内。私の前には釈迦如来の護衛隊である十二神将に扮した12名の男性と、黒留袖に身を包んだ各々の奥様方。『天武忌』は、想像していたお祭りムードとは全然違い、静かで厳粛な、文字通り、「法要」でした。


放送時間20分

『新井英一の世界vol.328』の再放送は、10月19日(月)午後3時〜、10月20日(火)夕方6時15分〜です。